その夜、チャトラはひとりで屋根裏に座っていた。
胸の奥に、ちくりとするような痛みが広がっていた。
「……なんでやろな。楽しい時間を過ごしても、心のどこかに痛みが残っとるんや」
気づけば、
少し離れた暗がりでソラ君が静かにこちらを見ていた。
物音も立てず、ただ そこに居る だけなのに、
その視線は「痛みを否定せんでええよ」と言っているようだった。
モノがそっと近づき、隣に腰を下ろした。
「チャトラ、その痛み……なくさなあかんって思っとる?」
チャトラは目を伏せた。
「うん……。だって、痛みがあると前に進めん気がして」
痛みを消すんやなく、受け入れる
そのとき、ソラ君がゆっくり歩み寄り、
チャトラのすぐ近くで丸くなった。
体温が伝わるほど近い距離で、
彼は何も言わず、ただ静かに寄り添っていた。
その無言の優しさに、チャトラの胸の痛みが少しだけゆるむ。
モノは静かにしっぽを揺らしながら言った。
「ほんとはな、痛みを消すことより、『そのまま持って歩く』ことが大事なんや」
チャトラは驚いたように顔を上げる。
「……持って歩く?」
モノが続けようとしたそのとき、
ソラ君がかすかに喉を鳴らした。
まるで
「そうだよ、そのままでいいんだ」
と言ってくれているように。
「せや。痛みはな、未熟さや失敗の証拠やなくて、魂が学びを刻んだ印なんや。
それを抱えながらも一歩を進めるとき、人はほんまに強くなる」
チャトラはその言葉に、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
横でソラ君がそっとしっぽを触れさせる。
その小さな触れ合いが、不思議な安心を運んできた。
感情の統合が魂を成熟させる
しばらく沈黙が流れたあと、チャトラが小さくつぶやいた。
「……わたし、ずっと『痛み=悪いもん』やと思ってた。でも、それも自分の一部なんやな」
モノはうなずいた。
「そうやよ。怒りも悲しみも痛みも、どれも欠けてはいけない色やん。
それを無理に消そうとせんでもよくて、ひとつに溶け合わせたとき、魂は深く成熟していくと思うんや」
チャトラの膝の横で丸くなっていたソラ君が、
ゆっくりと目を細めた。
三匹の呼吸が同じリズムになっていく。
夜空に浮かぶ月が、ふたりと一匹をやさしく照らしていた。
痛みはまだそこにある。けれど、もう怖くはなかった。
痛みとともに歩く勇気
チャトラは深く息を吸い込み、ゆっくり吐き出した。
「……痛みがあっても、歩いていけるな」
その言葉に応えるように、
ソラ君がそっと立ち上がり、
チャトラの前をゆっくり歩いた。
まるで
「ほら、一緒に行こ」
と言ってくれているみたいだった。
「そや。痛みを抱えながら進むからこそ、ほんとのやさしさや強さが育つんやと思うわ」
モノの言葉に背中を押されるようにして、チャトラは立ち上がった。
ソラ君は振り返り、静かにまばたきした。
それだけで、チャトラの中に “歩き出す力” が灯った。
「……わたし、この道を歩いてみるわ。痛みもわたしの仲間やって思いながら」
三匹はゆっくりと屋根裏をあとにした。
痛みを抱えたまま、それでも確かに前へ進んでいく足取りで。
モノとチャトラより、あなたへ
痛みは敵ではなく、あなたの経験の証なんだにゃ。
それを抱えたまま歩む勇気が、心を深く成熟させるのだにゃ。
「なくそう」とするより、「いっしょに歩む」と決めたとき、人生は少しずつやわらいでいきますんだにゃ。
筆者のことば
私たちは「痛み」をできるだけ避けたい、忘れたいと思いがちです。
でも心理学や神経科学の研究では、痛みや苦しい体験を「抑え込む」よりも「安全な環境で思い出し、意味づける」ことが回復につながると示されています。
たとえばトラウマ研究の分野では、恐怖や苦痛を処理する脳の「扁桃体」が過剰に反応しているとき、前頭前野の働きによってその反応を調整できることが分かっています。
また、体験を記憶する「海馬」が適切に機能することで、出来事を時間の流れの中に位置づけられ、過去の痛みを『現在の脅威』として感じにくくなるのです。
心理学的にも、「感情の統合(emotional integration)」は心の成熟に不可欠とされています。
ポジティブな感情だけを選ぶのではなく、ネガティブな感情も人生の一部として抱え直すとき、人はよりしなやかで、深みのある存在へと変化していきます。
痛みは消えるものではありません。けれど「意味づけ直す力」や「共感してくれる人との関わり」によって、脳も心も少しずつ変化し、レジリエンス(回復力)が育まれていきます。
そしてその過程こそが、魂の成熟そのものなのだと思います。
📝 心のワーク
- あなたがこれまでに経験した「心の痛み」をひとつ書き出してみましょう。
- その痛みが教えてくれたこと、得られた学びを3つ挙げてみましょう。
- 最後に「痛みとともに歩いていく」と小さく声に出してみましょう。
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ひとりで抱え込みそうなとき。
まだ「相談」と呼べるほど、言葉になっていないとき。
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小さく光が灯るように──
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そんな願いを込めて書いています。
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