言葉のいらない会話を知る|猫物語77話

モノとチャトラの物語

ある日の午後。

縁側でチャトラがのんびり寝転んでいると、
モノがすぐ横に腰を下ろした。

少し離れた柱のかげには、
ソラ君がやわらかく伸びて寝そべっていた。
目を閉じているようで、ふたりの様子には
静かに耳を澄ませている。

言葉を交わすでもなく、ただ同じ方向を見て座っている。

「……なんやろなぁ。静かなのに、落ち着く」

チャトラは心の中でつぶやいた。

モノは少しだけ尻尾を動かし、
チャトラの呼吸に合わせるように深く息を吐いた。

そのとき、
ソラ君のゆっくりとした呼吸が、
ふたりのリズムにそっと重なる。
三つの呼吸がひとつの波みたいに揃っていく。

胸の奥がふっとやわらかくなるのを
チャトラは感じた。


呼吸が合うと、心も合う

モノとチャトラは、ことばを使わずに呼吸を合わせていた。

ソラ君も、深い寝息でその場の空気をさらに静かに整える。
まるで「ここは安全だよ」と空気ごと伝えているみたいに。

まるで見えない糸でつながれているみたいに、
リズムがそろうと心も落ち着く。

「ああ、これが『だいじょうぶ』ってことなんやな」

チャトラは何も言わず、そっと目を閉じた。

モノの体温、
ソラ君のゆっくりとした呼吸、
同じリズムで動く胸。

それだけで十分だった。


非言語のあたたかさ

人と人との関わりも同じ。

呼吸がそろう、姿勢が似る、やさしい視線を交わす──
そんな非言語のサインは安心を生む。

それは迷走神経を通じて心身を落ち着かせる「コヒーレンス」のはたらき。
言葉がなくても、「ここは安全だ」と体が覚えていく。

チャトラは目を開けて、モノに視線を送った。
モノも静かに見返す。

その瞬間、
ソラ君がかすかに体勢を変えて、
ふたりのそばへゆっくり近づいた。
そしてなにも言わず、ただ静かに横たわる。

その静けさが、いちばんの会話になっていた。

ただそばにいること。
それが、最高の会話になっていた。

モノとチャトラより、あなたへ

ことばが出てこないときも、だいじょうぶにゃん。 呼吸やまなざしで、あなたの気持ちはちゃんと伝わっているんだにゃ。 そして誰かの安心も、きっとあなたの体に届いているはずだにゃ。周りの人でいつも安心している人は誰かにゃん?

筆者のことば

非言語的同調(アタッチメント・アチューンメント)は、言葉を介さずに相手とつながりを感じられる大切な要素です。
たとえば、相手の呼吸のリズムに自然と合わせたり、視線を柔らかく交わしたり、同じ姿勢をとることで、心が落ち着いて「この人は安全だ」と感じやすくなります。

こうした非言語的な共鳴は、神経系の中でも安心を司る迷走神経を介して働きかけ、心拍や呼吸が安定していく現象──いわゆる「コヒーレンス」を生み出します。
その結果、交感神経の緊張が和らぎ、副交感神経が優位になり、安心感や信頼感が高まります。

親子やパートナー、カウンセリングなどの人間関係の中で、この非言語的同調がうまく起きていると「わかってもらえている」という実感が得られ、関係の温度は自然と上がっていきます。
逆に言葉でどれだけ説明しても、呼吸や姿勢、視線がちぐはぐだと「なんとなく落ち着かない」という違和感が残るものです。

つまり、安心や信頼は必ずしも言葉だけで築かれるものではなく、身体レベルの微細な同調によって支えられているのです。


今日の心のワーク

  1. 大切な人と一緒にいるとき、相手の呼吸や動作にそっと意識を合わせてみましょう。
  2. 言葉を交わさずに、安心や信頼を感じられる瞬間を探してみてください。
  3. 「言葉がなくても大丈夫」という体験を、自分の安心の記憶として大切にしましょう。

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