ある夜。
ソラ君は屋根の上で、月を見上げていた。
その背中は静かで、けれどどこか、夜そのものと溶け合っているようだった。
そこへ、チャトラがひょいと顔を出す。
「ソラ君、なにしてんの?」
ソラ君はすぐには答えず、月から目を離さないまま言った。
「……ねえチャトラ。
たまにはさ、ちょっと『遊んでみない?』」
「遊ぶ? ここで? 夜に?」
チャトラは首をかしげる。
ソラ君は小さくうなずいた。
「うん。
でも、いつもの遊びとは、ちょっとちがう」
その言葉を聞いた瞬間、
チャトラの胸の奥が、ふっと軽くなった。
理由はわからない。
ただ、「おもしろそう」と思った。
屋根の上の空気が、少しだけ変わる。
風がやわらかくなり、月明かりが輪郭を失って広がっていく。
チャトラは、足元が軽くなる感覚に気づいた。
「……あれ? なんか、体がふわっとしてきた」
「無理に何かしようとしなくていいよ」
ソラ君の声は低く、静かだった。
「ただ、感じてみて」
次の瞬間。
チャトラは『飛んでいる』というより、
空と同じリズムになっているような感覚に包まれていた。
屋根も、街も、遠ざかっていく。
でも怖くはない。
星と星のあいだをすり抜けるように、
思考がほどけ、重さが消えていく。
「わぁ……」
声に出したつもりだったけれど、
それは音にならず、光みたいに広がった。
ここには時間も、正しさも、役割もない。
ただ、「楽しい」という感覚だけがある。
「なぁソラ君……」
チャトラは、くるりと回りながら言った。
「ここやと、わたし……
弱さとか、不安とか、ぜんぶ忘れてまう」
ソラ君は、少しだけ目を細めた。
「忘れる、っていうより……
もともと、なかったことを思い出してるだけかもね」
「え?」
「魂ってね、本当はすごく軽くて、
遊ぶのが得意なんだよ」
ソラ君はそれ以上、説明しなかった。
ただ、同じ空間に『いる』だけだった。
しばらく、ふたりは何も考えずに漂った。
遊ぶ、というより、委ねる。
やがて、空の色が少しずつ変わりはじめる。
夜明けの気配だった。
気づけば、屋根の上。
月は低くなり、街はいつもの姿を取り戻している。
チャトラは、名残惜しそうに息をついた。
「……楽しかったなぁ」
「うん」
ソラ君は短く答えた。
「また行ける?」
チャトラが聞くと、
ソラ君は空を見上げて、静かに言った。
「遊び心を忘れなければ、
どこにいても、あの場所はひらくよ」
チャトラは、その言葉を胸にしまった。
難しい意味はわからない。
でも、確かに体は覚えていた。
『ただ楽しい』だけで、心が整う感覚を。
夜は、静かに明けていった。
モノとチャトラより、あなたへ
わたしたちは、大人になると「役に立つこと」や「正しいこと」ばかりを考えがちにゃん。
でも、魂の本質はもっとシンプルで、自由で、遊び心にあふれているんだにゃ。
ときには「ただ楽しいから」という理由だけで何かをしてみてもいいのだにゃ。
そこにこそ、癒しと生きる力が隠れているのだにゃ。
筆者の言葉
心理学者フロイトの弟子であるユングは、人の心に「子どもの元型(child archetype)」が存在すると述べました。
それは純粋さや創造性、遊び心を象徴する部分で、人生の困難を乗り越える大切なエネルギー源だと言われています。
また、ポジティブ心理学でも「プレイフルネス(遊び心)」は幸福感やレジリエンスを高める要因として注目されています。
ソラとチャトラの体験は、まさにこの「遊び心の回復」でした。
遊び心は現実逃避ではなく、心の柔軟さを取り戻し、新しい視点を与えてくれるもの。
それは魂が本来持っている『自由』そのものです。
心のワーク
- 子どもの頃の遊びを思い出す
紙に、子どもの頃に夢中になった遊びを書き出してみましょう。 - 「意味のないこと」をする
結果や役に立つかを考えず、ただ楽しいと思うことを一つやってみてください。 - 自由にイメージする
目を閉じて、自分が空を飛んだり、光になったりするイメージを思い切り楽しんでみましょう。
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心にそっと寄り添うストーリーと、心理学のエッセンスをぎゅっと詰め込んだ 4冊をKindle出版しています。
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ひとりで抱え込みそうなとき。
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モノとチャトラの物語全話はこちら:
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