これは、ある40代の男性クライアントの、
例の蓋じゃなくて妻側の心がカビそうになる件の続きですね。
小学生の子どもたちと4人家族。
夫婦で家事も育児も分担してがんばっているつもりだった、彼。
けれどある日突然、妻からのLINEが届きました。
「もう話したくない。顔を合わせるのもしんどい。
水筒の件もだけど、あなたとのやりとりが、
もう無理かも」
……え、水筒?
最初は冗談かと思ったという彼。
でも、話を聴いていくと、そこには長年積み重なった『感情のフタ』がありました。
第一章:蓋の裏に隠れた感情
妻が伝えたのは、こんなひとことでした。
「洗った水筒を濡れたまま蓋しないで。カビるから。前から何度も言ってるよね?」
それに対して、彼はこう返してしまったのです。
「いや、タオルの方が雑菌ヤバくない?」
「自分だってやってないときあるじゃん」
「え?俺モラハラされてるってこと?」
……ここで読者のみなさん、気づいたでしょうか?
- 本題のすり替え(→雑菌の話に)
- 相手を責め返す(→お前もやってない)
- 被害者ポジション(→俺がモラハラ?)
この『すり替え三点セット』が発動すると、話し合いはできません。
相手は疲れ果てて、ただ言葉を閉ざすようになります。そう彼の妻がそうしたように。
第二章:「怒られてる」と感じる脳のバイアス
彼はこう振り返っていました。
「責めたつもりはなかったんです。でも今思えば……全部『言い返して』たのかもしれないです」
彼にとって『言い返す』のは、ごく自然な反応でした。
なぜなら――
小学1年生のころ、友達に教科書を全部、小川に投げられたことがあったそうです。
ランドセルごと、放り込まれて。
悔しさと怒りのあまり、近くにあった鋏を手に、相手を追いかけた。
幸いにも怪我をさせることはありませんでしたし、
相手の親からの謝罪もあったそう、
彼の親も、平謝り(そりゃそうですよね、、ハサミ持って追いかけるって怖すぎます)
また彼は男兄弟しかおらず、兄からの『いじり』という名の力関係もあったそうです。
「泣いたら負け」
「言い返さないとナメられる」
「言い返しても辞めてくれないなら伝わるように強く言い返せ」
――そんな空気のなかで育った彼にとって、
『守るための反射』は「言い返すこと」だったのです。
自分が言われたことには瞬時に言い返す。
それが彼が生きるために身につけた知恵だったのかもしれません。
そして今でも、妻の言葉が少し強く聞こえた瞬間、脳が『怒られた!』と受け取り、扁桃体が反応。
- 話の中身より「自分を守る」ことにエネルギーを使ってしまう
- 相手の言っている『意味』が聞こえなくなる
そんな状態に陥っているのです。
第三章:「受け取る練習」から始めてみた
カウンセリングで提案したのは、とてもシンプルなことでした。
- 内容に反論する前に、「受け取る」
- 共感できなくても、「そう思ったんだね」と伝えてみる
はじめは戸惑っていた彼も、やがてこんなことを口にしました。
「たしかに、『自分が悪い』って言われるのが、すごく苦手かも」
「『どうせ何言ってもまた怒られる』って、決めつけてたかもしれない」
この言葉が出たとき、大きな変化が起きました。
彼の視点が「妻にどう言い返すか」から、「自分の癖を知る」へと切り替わったのです。
第四章:夫婦で別居を考えた夜
一時は、妻から『具体的な線引き』が提示されました。
「家事も育児も全部やるから、顔を合わせたくない。
リビングは使ってもいいけど、会話はLINEだけにして」
夫は戸惑いつつも、こう言いました。
「確かに、話し合いになると毎回疲れてた。
言われると自分を守りたくなって、つい言い返しちゃってた」
「でも、このリセット期間って、必要なのかもって思ってます」
第五章:「なんかちゃんと話せた気がした」
数週間後、彼からこんなメッセージが届きました。
「まだ全然修復ってとこまではいってないですけど、
今日、ちょっとだけ、ちゃんと話せた気がしました」
「水筒のことじゃなかったんだなって、ようやく気づいたんです」
責められていたのではなかった。
『話が通じないのがつらかった』『気持ちをわかってほしかった』
それが妻の、本当に伝えたかったことだったと、ようやく受け取れたのです。
すり替えや言い返しをしてしまうのは、
『悪気』ではなく『防衛』のことが多い。
それが当たり前だった環境で育った人にとって、言い返さないことの方が、ずっと怖いことだからです。
でも、心の声に耳をすませたとき――はじめて、違う選択肢が見えてくるかもしれません。
「まず、受け取る」 その一歩が、ふたりの関係を変えることがあります。
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「水筒の蓋、閉めた・閉めてない」で、
家族の心がすれ違うなんて、思ってもいませんでした。
でも、ほんとうは──
『わかってほしかった気持ち』が届かないことの方が、
ずっとつらかったんです。
夫婦の会話が、ただの『言い返し合戦』になってしまう前に。
すれ違いを“終わらせる側”になる一歩を踏み出しませんか?
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筆者のことば
「言い返すクセ」は、自分を守るための知恵だったのかもしれません。
でも、そのままではすれ違い続けてしまい、夫婦の、家族の会話が始まらない。
相手の『わかってほしい気持ち』が届かなくなってしまうどころか、
届けようとする気すら相手から奪ってしまう。
受け取ることは、相手に負けることではなく、心を通わせるための第一歩。
自分の放った言葉に後悔があったり、突発的に反応してしまう人は、
今一度自分の反応を見直してみて。昔の傷が反応しているだけかもしれませんよ。
心のワーク
- 最近、身近な人とのやりとりで「言い返した」場面はありましたか?
- そのとき、自分の心の中ではどんな気持ちが動いていましたか?
- 相手の言葉の“奥”にあった感情は、何だったと思いますか?


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